IR theories とは  Realists vs Liberals  参考文献

 

国際関係論

日本語で「国際関係論」というと、国際関係に関わるあらゆる理論や研究をさす傾向があるのですが、英語でIR theoriesというと、大抵の場合RealismとLiberalismという二つの主要な理論と、それに挑戦する理論のことを指します。日本では一般的にLiberalismの傾向が強いため、Realism vs Liberalismという国際関係論の基本的な議論は日本人には馴染みが薄いかもしれませんが、アメリカはじめ各国の国際関係や外交政策の論文はもちろん、新聞や雑誌のコラムでさえ、この2大 IR theoriesを知っていることを前提に書かれているので、なんとなくでも理解しておくことが大変重要です。そこで、このページでは、Realism、 Liberalism、 Constructivismの理論を簡単に紹介します。

何についての理論なのか?

国際関係論(以下、IR theoriesのことを指す)とは、国際関係がどういう仕組みで動いているのか、つまり国際関係でおこる色々な現象(例えば戦争、平和、同盟など)がなぜ起こったのかを説明しようとしたものだと考えて下さい。あらゆる社会/政治科学の理論がそうであるように、歴史上におこった一つ一つの出来事をパズルのように並べて作り上げる一つの大きな絵が、国際関係論というわけです。ここでは、(neo)Realismと (neo)Liberalismという二つの主要な理論とそれに挑戦するConstructivismを紹介しますが、今のところどの理論も完全ではなく、それぞれ長所・短所があります。パズルのアナロジーを使うと、それぞれの理論は歴史という同じピースを使いながら違う絵を描こうとしているのだけれども、そのパズルのピースをぴったりと組み立てることができなくて、完全な絵を描けないでいるわけです。

国際関係論は、今後の外交政策を考える際に大変重要です。例えば、経済開放によって中国からの軍事的脅威は増すのか減るのか、RealismとLiberalism、どちらの考え方を採用するかによって答えは正反対です。

注意しなくてはならないのは、RealismやLiberalismというように大まかに2つに分かれてはいますが、その境目は線を引いた様にはっきりしているわけではありませんし、それぞれの理論の中でも色々な意見があるということです。さて、あなたはどの理論のどの議論に賛成しますか?

 

Realism(リアリズム)

(Classical) Realismは、ホッブス、カー、モーゲンソーといった理論家たちによって徐々に発展し、ウォルツによってNeo-realism(ネオリアリズム)へと枝分かれしました。Neo-realismへの批判をPost-neorealismと呼ぶこともあります。

(Classical) Realismの前提

1、国際関係の主体は国家のみである

国際関係は国家の行動のみによって作られているのであって、非国家主体の活動は国際関係に含まれない。 

2、国際関係において国家は権力(power)を追求する 

  • 国際関係において、すべての国家は権力を得ることを目的に行動する。
  • 人間は自然状態においては自己保存のために闘争的であって、超国家的な法の執行機関を欠く国際関係においては権力闘争が表面化する。(ホッブス)
  • 人間は本来他を支配する欲望を持ち合わせているから闘争はなくならない(モーゲンソー)
  • 国々の相互作用の結果、勢力均衡(balance of power)が必然的に導入される。多極的な勢力均衡は、国家の自立性を保障し、戦争を回避させる機能をもつ。(モーゲンソー)

3、国家は合理的な決定/行動をするから、客観的に対外政策を把握できる。

どのような国内政治体制(民主主義、独裁など)をとっているかに関わらず、国家は同様に合理的な選択をする。

Neo-realismの反論

*国家の目的は権力ではなく、安全(security)である。(ウォルツ)(=防御的リアリズム)

  • Structural Theory:国家を戦争へ駆り立てるのは闘争への欲望があるからではなく、無政府状態(Anarchy)の国際関係において自分の安全を自助(self-help)努力によって守らなくてはならないからである。国力の差異や分散状況によって国際システムの構造が決まっていて、そのシステムのどこに位置するかによって国家の行動は決まる。
  • 冷戦中(二極的勢力均衡)が多極的な勢力均衡よりも平和を保つことができたのは、国家が権力ではなく安全を求めた証拠である。多極的勢力均衡は二極均衡より不安定で危険である。
  • 安全保障のジレンマ(Security Dilemma): 他国から自国を守るために武装すると、その武装が他国の目に脅威とうつりお互いの緊張がさらに高まっていく。(囚人のジレンマというゲーム理論の基礎を使って説明される。)
  • 国家は権力ではなく安全を求めているので、権力の非対称な同盟に対面した場合、後々の支配を恐れて、強い同盟に加わる(bandwagoning)のではなく、弱い方の同盟に加わる(balancing)。その結果、勢力均衡が生まれる。

その他Realismの発展、Post-neorealismの反論

  • Offense-defense theory:防衛と攻撃のどちらが有利かによって戦争が起こる可能性が決まる。防衛が攻撃よりも容易であれば、安全は保たれやすいので戦争はおこりにくい。また、防衛用と攻撃用の武器を区別することができれば、Security Dilemmaを避けることができる。(ジャーヴィス、ケスター等)
  • Defensive realism(防御的リアリズム):ウォルツが国家の目的を「安全」としたこと自体を防御的リアリズムと呼ぶことも多い。協力することが安全保障のためになるのであれば、国家は権力を極大化しようとせずに、進んで相手に譲歩したり妥協したりする。 (グレイサー )(注:これに対しミアシャイマーなどパワーに注目した議論をOffensive realismと呼ぶ)
  • ある国家が攻撃的な行動を取り出すと、他の国は結集して対抗し、自分達の安全を守ろうとするので、大国が自分の安全を守るには、防衛的な姿勢をとるべきである。だとすれば、攻撃的/拡張的な行動をもたらす原因は国際関係ではなくて国内政治なのではないか?(スナイダー)
  • Balance of Threat:国家は、将来直面すると思われる脅威を相殺するために同盟を編成する。どちらの同盟の権力が強いか、で判断するわけではない。(ウォルト)

 

Liberalism(リベラリズム)

Liberalismは伝統的なRealismに対抗する形で生まれました。Liberalismもその発展過程でNeo-liberalism(ネオリベラリズム)に枝分かれしました。国際関係論で使うLiberalismは、政治用語に使われるLiberalism(保守-自由の自由)とは区別されるので注意してください。

(Classical) Liberalismの仮定

1、歴史は進歩し、国家は闘争を避けるための規範やシステムを作り出すことができる。

  • 思想は国家の行動に影響する
  • 国際関係における無政府状態は国家が協力しようとする努力やCivilityを阻害しない。

*国際間の協力は可能である、という前提はLiberalsの間で共通しているが、「なぜ」「どうやって」については各種の議論がある。以下代表的な議論。

2、民主主義の発展、国内レベルでの自由権の保証、法の支配の発展によって国家間は協力しあうことができる。(=Republican liberalism)

3、自由貿易が国家間の利益を調和する(=Commercial liberalism)

自由貿易によって世界各国の経済は市場のメカニズムによって調整され、均衡が保たれる。保護主義や植民地主義はこのメカニズムを壊すので平和と安全を危機にさらす。(リカードゥ、ミル、ベンサム)

Neo-liberal institutionalismによる修正

1、国家は道義的な理由から国際協力をするのではなく、自国の利益を追求する合理性を持って行動する結果が国際協力である。

Classical Liberalismは国家や個人に道義的な思考や行動をとることを求めたが、Neo-liberalismはそれぞれの合理的な行動によって、国際協力は得られると考える。

2、相互依存という一種のメカニズムによって、国家間の国際協力がもたらされる。

  • 相互依存しあう国家間ではそれぞれがお互いに影響力をもつので、合理的な思考から、自国の利益を長期的に守るために、互恵的な国際協力を維持するための制度を選択する。
  • 貿易や金融の自由が保たれている状態では、外国の生産要素を利用したいと考える時、国々は武力行使によって外国を支配するより貿易や投資を行う方がコストが少ない。しがたって、武力行使の経済的動機が小さくなる。

3、民主平和論(Democratic Peace):民主主義が平和的というわけではないが、民主主義国家同士は戦争をしない。

Classical Republican liberalsが、民主主義は他の体制にくらべて平和的だ、と主張しているのに対し、民主国家が他の国より平和的と言う証拠はないが、民主国家同士は戦争をしたことが(ほとんど)ない、という議論。ラセットが民主国家の二国間関係と戦争蓋然性の相関をとって統計的に実証した。批判として、民主国家が発生してからの歴史が浅いのでデータが不十分であるとか、民主国家は非民主国家に対して攻撃性がむしろ高いのではないか、などがある。クリントン政権が採用し、外交政策の要においた議論。

 

Constructivism (コンストラクティヴィズム)

RealismとLiberalismという二大理論が冷戦の終結をうまく説明できないということもあって、新しいアプローチが生まれています。その中でもConstructivismは今までの理論でうまく説明できなかったことをうまく整理し説明しているため注目を集めています。Constructivismは元々ヨーロッパで発展した哲学(批判理論やポストモダン)を基礎に社会学で早くに発達したアプローチで、上記のNeorealismとNeoliberalismが双方とも「科学的な手法による、国家の合理的行動の理解」を目指すのに対し、Constructivismは、社会における「現実」は客観的なものではなく、人々(ここでは国家を含む)が歴史的に培った共通の主観によってなりたっていると考えます。つまり、何が「合理的だ」と思われるようになったのか、どのようなアイディアが国際関係を支配しているのか、という背景に注目するものです。このようなアプローチの差をPositivism(上記二つ)とPost-positivism(Constructivism)と呼ぶことがあります。このように、Constructivismは、いわゆる理論(色々な状況に当てはめられるようなルール)ではないため、国際関係の行方に関する統一した見解はありません。

Constructivismの前提

1、個人の思想や信念は重要な変数であると同時に、人々の共通認識(間主観性: intersubjectivity)に注目。

RealismとLiberalismが権力や貿易といった物質的な変数に注目しているのに対して、Constructivismは思想や言説が与える影響力が高いという。例えば、冷戦の崩壊は、ソ連のゴルバチョフが新しく「Common Security」という思想を取り入れたために起こった、と説明する。

2、国家の目的やアイデンティティーは歴史によって形作られる。

それぞれの国家の目的は歴史、思想、信念、社会的背景などによって形成されている。それゆえ、時代によって国際関係のルールや仕組みが全く異なり、簡単に一般化した理論をつくることができない。例えば、中世においては、領土や主権の捉え方が今とは異なるので、リアリストやリベラルが編み出した理論の前提が保てず、同じ理論を時空を超えて当てはめることができない。

3、それぞれの国が自国や相手をどのように見ているかでその国の行動は決定される。

権力は無関係ではないがそれだけで国家の行動は決定されない。アメリカが「世界の警察」と自国を見ていたり、日本が積極的な軍事的役割を制限されていると自分で感じている、などの自己認識が重要である。したがって、同じ環境下にあっても、その国が国際情勢や自己、相手国をどう認識するかが結果的にアナーキーを生み出したり、相互依存を生み出したりする。

 

まとめ

Realism
Liberalism
Constructivism
基本仮説
国家は権力または安全を求めて常に競争している
経済的・政治的な利益、リベラルな価値への関心が権力に対する関心をうわまる
国家の行動はリーダーの思想、集団的な規範、社会的アイデンティティーによって決定される
分析対象
国家
国家
社会、国際社会
手段
経済的/軍事的パワー
国際機関、経済的相互依存、民主主義の促進など
思想や規範
代表的な現代の思想家
  • Hans Morgenthau
  • Kenneth Waltz
  • Michael Doyle
  • Robert Keohane
  • Alexander Wendt
  • John Ruggie
冷戦後の予想
大規模な権力闘争の再開
リベラルな価値、自由市場、国際機関の拡大による国家間協力の増加

予測不可(新しい思想の予測はできない)

問題点
国際的な変化(冷戦の終結など)が説明できない
権力(パワー)の役割を無視しがち
過去を説明するのに優れているが未来を予測できない、統一した見解がない

参照:Stephen M Walt, "International relations: One world, many theories" Foreign Policy, Spring 1998